次の危機は台湾有事では無い

次の危機は台湾有事ではない。

☆何故台湾有事は無い(あるいは可能性が低い)のか考察してみよう。

①中国は世界から孤立できない:中国をGDP世界第二位に押し上げたのは、世界の工場としての貿易である。台湾に侵攻したら、世界中から非難を浴び、経済制裁により海外貿易に支障が出ることは目に見えている。中国は自国内で存立できる程の経済体制は強く無く、GDP世界第二位の地位から転落することは目に見えている。これはプライドの高い中国人が容認出来ることではない。これは習近平体制を危うくする事になる。習近平はまだプーチンほど耄碌しておらず、この辺の計算は出来るだろう。

②台湾領有のメリットとデメリット:国家を運営するとコストとプロフィットが発生する。要はコストに見合うプロフィットが得られるかである。第二次大戦以前の日本は大変貧しく、朝鮮と満州に活路を求めたが、統治するコストの方がプロフィットより大きく、貧しいままであった。戦後これらの領土を放棄しコストが掛からなくなったら、世界との貿易によるプロフィットだけを得られるようになり、豊かな国となった。台湾進攻は軍事的に非常にリスクが高く、占領後のコストも掛かるであろう。それよりは、巨大な台湾経済を平和的に中国大陸内に導入する方が、リスクもコストも少なく、得られるメリットは大きい。

③大陸の中国人も台湾の中国人も共に漢民族である:他国の人が見るよりも漢民族同士で考えを分かり合える。相互不信からの疑心暗鬼による突発的な行動に出難い。掛合漫才の様に適度に緊張状態と緩和状態を作り出す方が、双方にもメリットがある。

☆それでは、ポストウクライナの危機は何処か?

米国にトランプ政権が復活して支援を受けられないようになり、ウクライナ全土がロシアに占領されたとの前提であるが、次の危機はずばりロシアによる北海道侵略だ!それについて以下に考察する。

①日本とロシアの戦後は終わっていない:1951年のサンフランシスコ講和会議で、日本は戦争に参加した連合国諸国と平和条約を締結したが、ソ連はこの条約に調印していない。その後も平和条約が締結されることは無く現在に至っている。ソ連を引き継いだロシアから見れば戦時状態を留保していると言えるだろう。

②ロシアは北海道をロシア領土と考えている:日本は北方領土を日本の領土と考えているが、ロシアは北海道をロシア領土だと考えている。第二次大戦の戦勝国の権利として、ソ連は南樺太、千島列島、北海道を要求したが、流石に米国の反対で北海道の割譲は果たせなかった。この第二次世界大戦後の積み残しの清算を武力により求めて来る可能性がある。

③北海道には米軍基地が無い:北大西洋条約機構(NATO)では、条約加盟国の一か国でも侵略を受ければ、NATO加盟国全てが侵略を受けたものと見なし、直ちに参戦する義務を負う。しかし、日米安保の場合、日本が侵略された場合には米国議会の承認が無いと米軍は参戦出来ない。トランプの米国第一主義が蔓延すれば、議会の承認を得られない可能性は高い。仮に承認されても、議会の審議に時間が掛かれば、その間に北海道全土が占領されてしまう恐れがある。しかし、米国民の安全が脅かされれば、議会も承認せざるを得ないであろうが、北海道には米軍基地は無く、ロシア軍が侵攻して来ても米国民が危険に晒される事は無く、見殺しにされる可能性は高い。

④ロシアの国内経済は強い:広大なロシア国内は資源も豊富で、国内経済も強いようで、今回のウクライナとの戦争による国際的な制裁も効果を発揮していないようだ。この点は中国とは異なる。ウクライナに次いで日本への侵略を始めて世界の非難を浴びても’蛙の面に小便’である。

第二次大戦でドイツに勝利したソ連は、その余剰となった全軍事力をもって満州、樺太、千島に侵攻して来た。カギとなるのはウクライナ戦勝利後のロシアが、どの程度を北海道に振り向ける余裕があるかだろう。前回はドイツの息の根を完全に止め、まだ東西冷戦前であり米国との緊張関係も無く、全軍事力を日本に振り向ける事が出来たが、今回のウクライナ勝利後は、西側ヨーロッパ諸国との間に緊張関係が残り、ウクライナ占領統治にも相当の軍事力を割かなければならないため、第二次世界大戦後の様な訳にはいかない。ロシアの伝統的な軍事ドクトリンでは自軍の戦力が相手の戦力の倍以上にならないと戦闘しない。要は自衛隊の戦力の倍以上の戦力を準備出来るかである。

もう一つのカギは、現在のウクライナとの戦争がロシア国民の総意に基づくものでは無く、独裁者プーチン一人が始めた戦争であるという事だ。プーチンの大統領再選は確実と見られるが、その後世界がどうなるかは、誇大妄想に陥った老人の耄碌具合であろう。

先の先、後の先 ウクライナ反転攻勢と1943年クルスク戦の類似

戦い方には先の先と後の先と呼ばれる二種類の戦い方がある。先の先とは先に攻撃を仕掛けてそのまま相手を押し切ってしまう戦い方であり、後の先とは先ず相手に攻撃させ相手が消耗したところで反撃に出てそのまま押し切ってしまう方法である。

ロシアは歴史的に先の先の戦い方は得意ではない。開戦時に余程の兵力差がなければ勝利した例は少ない。しかし、後の先の戦い方は非常に得意である。第二次世界大戦中の1943年ナチスドイツは当時のソ連邦相手にクルスクで大攻勢に打って出て失敗し、その結果二度と攻勢を行えないまでに消耗し、その後ベルリン迄一挙に攻め込まれる結果となった。

現状のウクライナの反転攻勢の状況を見ると、以下の類似点から、どうしてもこのクルスク戦を連想してしまう。

①当時軍事専門家でなくてもクルスクでドイツ軍の大攻勢があることは周知の事実(ナチスのプロパガンダにより報知されていた)であった。今回の戦争でもロシア軍の攻勢の停滞に伴いウクライナ軍の反転攻勢があることは世界中の人々が予知できることであった。今回の戦争では戦線が非常に長いため、戦場はクルスクの様に一地域に限定することは出来なくても、軍事専門家が見れば予定戦場は数カ所に限定できたであろう。

②反転攻勢までに時間を掛け過ぎた。当時のドイツ軍の前線司令官は早期の攻勢を企画したが、ナチス指導部は戦備が充実するのを待ってから攻勢を開始した。その間ソ連軍はクルスクに縦深陣地を築き上げ、攻勢を失敗させている。今回の戦争でもレオパルド戦車や欧米からの軍事援助を待ち準備に時間が掛かってしまった。その間にロシア側も予定戦場を要塞化する時間が稼げた。攻撃三倍の法則と言われるが、普通攻撃する側は防衛する側の三倍の兵力を必要とするが、防御陣地が要塞化されている場合十倍、百倍の兵力が必要となる(大阪冬の陣でも分かる様に、大軍を以てしても堅固な要塞を攻めることは難しい。大阪城を陥落させたのは武力では無く調略であった。少数の人数がこもる砦で大軍を相手に善戦した例は世界中に沢山ある)。開戦劈頭キーウに迫るロシア軍を撃退できたのは、ロシア軍に防御のための野戦築城の時間が無かったからである。

クルスク戦の結果、ドイツ軍は二度と攻勢に打って出るだけの戦力を失い、そのままベルリン迄一方的に攻め込まれている。現在トランプ氏が米国大統領に返り咲くのは確実とみられる。そして、トランプ氏が米国大統領に就任すれば、ウクライナへの援助は打ち切られるものと予想される。その結果として、キーウがロシア軍により蹂躙されることが予想される。ゼレンスキー大統領や首脳部は軍事裁判に掛けられ断罪されるだろう。

その後については更に恐ろしい事が予想される。それに関しては次回『次の危機は台湾有事では無い』で考察したい。