帝国主義の終焉

かつて大英帝国が最も発展し栄華を極めたのはヴィクトリア女王(1819年5月24日 – 1901年1月22日、英国女王としての在位1837年6月20日 – 1901年1月22日)の時代であった。この時代世界各地に植民地を得て’太陽の沈まぬ国’と豪語した。

このヴィクトリア女王の在位中に悲惨な事件が起きている。大英帝国の本拠である大ブリテン島の西側にアイルランド島が在り、北の一部を除いてそのアイルランド島の大部分を占める国家がアイルランド(アイルランド共和国)である。このアイルランドは長い間東隣の英国から圧政を受けていた。アイルランドで収穫される小麦は全て英国に収奪され、アイルランド国民の飢えを満たすものはジャガイモしか無かった。ところが、1845年に始まったジャガイモの疫病はアイルランド国民の唯一の主食を奪った。餓死者が続出したが、それでも英国はアイルランドに小麦を返すことは無かった。約4年間の疫病の期間中に100万人以上のアイルランド人が餓死したと言われている。多くのアイルランド人は祖国に見切りを付け、新天地(アメリカ合衆国)に移り住んだ。この中に後の合衆国第35代大統領を送り出すことになるケネディ家も含まれていた。

この英国のアイルランドでの圧政の原因として宗教問題(アイルランドはカソリック、英国は英国国教会)もあると考えられるが、ともかく世界各地から収奪する利益により英国が繁栄を極めていたのは間違い無い。すなわち植民地経営のコストとプロフィットを比べればプロフィットが勝っていた状態であった。

第二次世界大戦以前の日本は大変貧しい国であった。冷害の続く東北地方では、自分の娘を売って食いつなぐ農家が続出した。一部の村役場ではこの人身売買の斡旋が行われていた。

東北地方だけで無く、山崎朋子著のノンフィクション「サンダカン八番娼館」に描かれている様に九州の島原地方からは’からゆきさん’と呼ばれる娼婦として売られていく娘は後を絶たなかった。また、こうの史代の漫画「この世界の片隅に」に登場する遊女達の様に貧困のため身売りした娘達は日本全国に大勢居た。

第二次大戦以前、日本は世界地図上では広大な地域を支配しており、欧州の植民地宗主国に劣らず、それ以上にこれらの地域から収奪したが、日本が豊かに成る事は無かった。植民地支配に対するコストとプロフィットが全くあわなかったのだ。敗戦により、これらの広大な支配地域は全て失ったが、同時に植民地支配に必要なコストも無くなり、軍隊という消費するばかりで何も生産しない100%コストセンターを手放すことが出来、海外との貿易という極めてローコストな手段により最大限のプロフィットを享受出来るようになり、一時は米国に次ぐ世界第二位の経済大国にまで成長した。第二次大戦後、日本だけで無く欧州諸国も植民地経営のコストとプロフィットがあわなくなり、多くの支配地域が独立を果たすことになる。まさに帝国主義時代の終焉であった。

現在、ロシアはウクライナへの侵略を続けており、軍事力では圧倒的に優位なため、核兵器の恫喝によりウクライナを征服する事は可能かも知れない。しかし、ウクライナを支配し、かつてのソ連帝国の様に広大な地域を支配しても、ロシアに対する世界の制裁は更に強まり、満足な貿易も行えないようになり、ウクライナ支配に必要なコストの増大と貿易減によるプロフィットの減少により国力はどんどん低下して行くことになるだろう。

プーチンの目指すかつてのソ連帝国は広大な国土と強力な軍事力は持っていたが、GNPは当時のオランダ程度であったと言われている。国民の生活は決して豊かでは無かった。ゴルバチョフ以降の改革開放により自由主義経済体制で貿易を続けていれば、更に豊かな国となるチャンスは在ったのに、時代錯誤の帝国主義的野望を剥き出しにしたことにより、北朝鮮の様に核兵器を持つ最貧国の仲間に加わって行くことだろう。

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