東京電力の株主代表訴訟に関する最新の判決では、東京高裁が旧経営陣に対する約13兆円の賠償命令を取り消し、原告側の請求を棄却しました。この訴訟の敗因は「東京電力が津波対策を怠って来た」という点を争点にした事です。
巨大地震や巨大津波の来襲は現代の科学をもってしても予見するのは困難で裁判の争点としては難しいです。それに東京電力福島原発が壊滅し日本国に甚大な被害をもたらしたのは、地震や津波では在りません。当時の映像を見ても地震後も原子力建屋は何の問題も無く立っており、津波後も外観上何の異常も無く立っております(笑)。津波により原子炉建屋が破壊され、原子炉が被害を受けたのなら津波対策は争点になりますが、そうでは在りません。1号機が水素爆発を起こして瓦礫の山となったのは地震の翌日、3号機が水素爆発を起こしたのは3日後、4号機が水素爆発を起こしたのは4日後であり、この間対応する猶予は在ったのです。過去にも新潟地震で柏崎刈羽原子力発電所が甚大な被害を受けましたが、放射能漏れや原子炉建屋の爆発などの被害は出ていません。地震国日本に建設された原発は地震に強いのです。
それでは何が原子炉のメルトダウンと原子炉建屋の爆発に至ったのかと言えば、津波が引き起こした『全電源喪失』です。この全電源喪失により原子炉は制御不能となり大災害を引き起こしたのです。この全電源喪失が発生する可能性は単に津波だけに限らず他の自然災害やテロでも考えられます。
過去にも大前研一氏は全電源喪失の危険性を指摘しております。予測困難な巨大地震や津波と違って当然予見しうる全電源喪失に対して何等対策を講じて来ず、いざ非常事態となって対応策が判らず右往左往する中で原子炉の壊滅的破壊に至った東京電力の責任は重大です。従って裁判の争点は津波対策ではなく全電源喪失時の対策不備とするべきでした。
東日本大震災の前には日本国内に54基の原子力発電用原子炉があり、現在12基が再稼働しています。これらの原子力発電所に全電源喪失時の適切な対応マニュアルが準備され訓練されているか不安です。