取りあえず今回のアメリカ合衆国の大統領選挙結果には胸を撫で下ろしている状況である。
トランプ大統領はまだ頑張っている様であるが、これほど得票数に大差がついてしまったら、滑稽な足掻きに過ぎず、側近も一人抜け二人抜けし、家族にも見放され最後は哀れな老人が一人取り残される事であろう。選挙前は僅差による敗北とその後の国民の分断による混乱を杞憂したが、米国民の良識はまだ健在であった。
事実、合衆国の石杖となった移民は祖国に居た時は宗教や民族や思想や言語等の違いにより、互いにいがみ合い争いを繰り返していた訳であるが、新天地の開拓に当たり、支配者の強制では無く自らの意思により互いに団結し協力し合い一つの国家を作り上げて来たのであった。従って一歩間違えれば常に分裂の危機を内包している国家なのである。
実際に米国が二つに分裂しそうな危機的状況があった-南北戦争(アメリカではThe Civil Warと呼ぶ)である。
南北戦争の原因は宗教問題でも民族問題でも無く、意外な原因であった-貿易問題である。
一般に南北戦争の目的は奴隷の解放と解釈されているが、奴隷解放は目的では無く手段であった。
当時米国南部諸州では綿花栽培が盛んでヨーロッパ諸国に対して圧倒的な価格優位性を持っていた。南部諸州では自由貿易によりもっと大量の綿を輸出したい。
ところが北部諸州では重工業が端緒についたばかりで、先行するヨーロッパから重化学製品が流れ込んだら自国の産業が滅びかねない-保護貿易により自国産業を保護したい。
何故南部の綿は圧倒的な価格優位性を持っていたかというと、広大な土地、綿花栽培に適した気候等が上げられるが、大きな要因としては黒人奴隷という極めてローコストな生産手段にあった。
北部にも奴隷はいたが、その役割の多くは家庭でのメイドくらいで重工業の生産に寄与する事は無かった。そこで奴隷制を廃止すれば南部の綿の価格優位性は失われ、自由貿易を求める声は無くなるはずであった。
結局奴隷制廃止をめぐって南北に分かれ内戦状態になる訳であるが、奴隷解放は目的では無く手段であったから、戦後行き場を失った黒人は都市に流れスラムを形成することになる。黒人奴隷達の末裔が真に市民権を得るにはその後100年以上を要することになる。
南北戦争という混乱はその後の米国に大きな影響を与える事になったが、日本にも少なからず影響を与える事になった-その事に関してはいずれ述べることになるであろう。